夢・希望を育む教育のデザイン (改 -JEDIー)

「責任増す教育長 大学で養成」という記事は何を意味しているのか?

 

9月から10月にかけ、読売新聞に「教育ルネサンス 教育委員会改革」という連載記事が6回にわたり掲載されました。

kaikakumokuji1この記事は、改正地方教育行政法が4月に施行され、約60年ぶりに教育委員会制度が見直されて半年近く経ったことから、改めて「教育委員会は変わったのか?」という視点にたった連載記事です。

地方教育行政法が改正された発端は、大津市で発生した「いじめ事件」における学校や教育委員会の対応の遅れや不適切な対応でした。そして、教育現場での事件・事故に迅速かつ適切な判断や教育行政の一元的な実施を目的として首長が参加する総合教育会議の新設や、教育委員長を廃し「新教育長」に権限を一本化するなどの組織改正が行われました。

そして半年。読売新聞の6回の連載記事は次のような見出しで構成されています。
rensaimokuji新教育長の責任がいっそう重くなることは自明ですが、第1回「教育長人事難航」、第4回「責任増す教育長 大学で養成」という記事は、現在の教育行政が抱えている状況がいかに深刻なのかを示しているように思います。

記事の一部を紹介すると

教育長人事難航
 一方、新制度で誕生した新「教育長」に、大津市ではまだ移行していない。
 これまでの制度では、教育行政の事務局の責任者である教育長(常勤)と、合議制の執行機関である教委の代表者の教育委員長(非常勤)がおり、「2人の『長』がいると、誰が責任者かわかりにくい」と批判があった。新教育長が就任すると、教育委員長は廃止される。
 現在の教育長は、越市長の秘書課長も務めた元市職員の井上佳子さん(54)。昨年3月、前教育長が体調不良を理由に突然辞任、後任人事が難航し、同11月に抜てきされた。教育委員長は桶谷守・京都教育大教授(64)。「教員の経験もあり井上教育長をサポートできる」(市教委幹部)と当面、今年4月時点で教育長が任期途中の場合移行を猶予される経過措置を利用することになった。
 桶谷教育委員長は「教育の専門知識と行政経験の両方を持つ常勤の責任者を見つけるのは難しい」と新制度の課題を指摘。その上で、「市長と教委が一体となり教育行政を進めていくことで補っていきたい」と話す。

大学で養成
 (兵庫教育大では)来年度、全国初の教育長養成コースを新設する。定員は5人で、現職の教育長や、校長、教委幹部らが仕事をしながら学べる。2年間の授業の大半は、同大教授らが教育長らの勤務先などに出向いて直接指導する。
 加治佐哲也・同大学長(64)は「教育長の資質能力は、地域全体の教育力に直結する。リーダーは常に学びを深め、能力を磨いていかなければならない立場だ」と強調する。
 政策研究大学院大(東京都港区)も17年度に教育長養成コースを設置予定だ。昨年夏からは教育長を支える教委幹部らを対象に約2週間の夏季集中セミナーも開催。7月21日から31日まで開かれた今年のセミナーでは、主に首都圏の教育次長や部・課長クラスの教委職員ら18人が文部科学省幹部や現役教育長らの講義を受け、グループ討論などに取り組んだ。担当の今野雅裕教授(63)は「受講生の中から、未来の教育長が出て来てほしい」と期待した。

記事から推察すると、教育という営みやそれを支える教育行政は現にいまも機能し動いているにもかかわらず、現実にはそのリーダーであるべき教育長としての適任者が不足しているということであり、「これから勉強します」「今勉強中です」という教育長が、現在の教育行政をリードし、子ども達の未来を担っているという現実が予想されます。
「教育は未来への投資」とよく言われますが、これまで以上に変化の激しい時代を迎えようとしているいま、そのリーダーであり責任者である教育長が「研修中」だとすれば、先見性やリーダーシップが不足したまま教育行政を担うことになり、未来を担う子ども達の育成という教育のねらいそのものが怪しくなるというきわめて深刻な問題が内在しているということにもなります。

特に、改正の発端となった大津市で、いまだ新教育長が任命されていないことは、あらためて教育委員会改革、強いていえば教育改革の難しさを感じさせます。

2020年の学習指導要領の改訂・実施を4年後に控え、教育改革が遅滞することは許されませんが、その担い手であり、リーダーであるべき教育長をこれから養成するというということを、現在学校で学んでいる子ども達や保護者はもとより、教育委員会の指示・指導の下で職務に専念している先生方にどう説明したらいいのでしょうか・・・?

一部の人だけに未来の教育を任せるのではなく、すべての人々が自身の問題として、矢継ぎ早に繰り出されている教育改革一つ一つをしっかりと吟味し、継続的にチェックすることが必要な時代が到来しています。