日本教育デザイン学会 ーJEDIー

社会モデルとしての特別支援教育 -八戸市中学校教育研究会講演より-


5月1日(月)、八戸市中学校教育研究会の依頼を受け「『特別支援教育の視点』とこれからの学校教育」をテーマに講演を行ってきました。
八戸市は中核市として研修の充実に力を入れており、当日は八戸市内の中学校の先生方が一堂に集まり、八戸市の中学校教育をさらに良いものにしようという熱意に溢れた雰囲気の中で、400名を越える先生方が、講演に熱心に耳を傾けてくださいました。

ここでは、講演の内容の一部に触れながら「社会モデルとしての特別支援教育」について考えてみたいと思います。


平成19年4月。法の改正により「すべての学校で特別支援教育に取り組む」ことになってから、早くも10年が過ぎました。その間、各学校の特別支援教育に対する理解は進み、多くの実践が積み重ねられてきました。

しかしその一方で、まだまだ特別支援教育への理解が不十分であったり、一部の教員の実践に留まり、学校が組織的・継続的に取り組むことに関しては課題を残しているように思います。
特に、学校の特性である「集団」の育成と個人の成長という視点での取組が少なく、課題を抱えている児童生徒個人への対応や支援を特別支援教育としてとらえている傾向が強いように思います。

そのような特別支援教育への考え方を、「個人モデル」あるいは「医療モデル」といいます。
図に表すと次のようになります。

このモデルでは、児童生徒の問題行動を「個人の問題」として捉え、「個々人の子供の問題だから、その子供への支援や働きかけを行う」という考え方に立ち、特別支援教育や授業のユニバーサルデザイン、インクルーシブ教育に取り組むと行った考え方です。それは、医師が患者の治療に当たるような立場で子供の問題に対処しようとするものです。

ここに、これまでの特別支援教育の課題が潜んでいるのではないでしょうか。
「発達に課題のある児童生徒が増えている」という言葉をよく聞くようになりましたが、それは「発達障害の児童生徒が増えている」ということと同義ではないように思います。むしろ、不適切な環境や不適切な対応が「後天的に獲得してしまった二次障害に苦しむ児童生徒を増加させている」のではないでしょうか。

子供たちが示している問題行動や課題の解決に必要な知識や手法を、私たち教師は十分に持ち合わせているのが再検討する時期を迎えています。「子供」の成長や発達に関して十分な知識を持ち合わせていることは、子供たちの指導や支援に不可欠であるにもかかわらず、「子供」に関する理解が不足しているとしたら・・・・

子供たちは素晴らしい可能性と能力を内に秘めて誕生してきます。そして、生まれ育つ環境に必死に順応しながら成長・発達していきます。別な言い方をすれば、子供たちの脳は、環境と経験に強い影響を受けながら、その環境を生き抜くのに適合した(ふさわしい)脳へと自己組織化されていくといえます。

ここに「社会モデルとしての特別支援教育」の意義と役割があります。
「社会モデルとしての特別支援教育」では、個々の子供の問題や課題を「個」に起因するものと考えるのではなく、「本当は子供を取り巻く環境や社会の問題」として捉え、社会伝体で子供の成長・発達を支えていく過程で、個々の問題を包摂しながら対応していこうとする立場をとります。

そして、「社会モデルとしての特別支援教育」という考え方は、障害者権利条約などの背景にある考え方であり、この考え方を学校教育に生かして特別支援教育に取り組むことが、今後一層必要になってきます。

「新学習指導要領」では、「社会に開かれた教育課程」の必要性を強く指摘しています。
その前文には、次のような文章があります。

「よりよい学校教育を通してよりよい社会を創るという理念を学校と社会が共有し、それぞれの学校において、必要な学習内容をどのように学び、どのような資質・能力を身に付けられるようにするのかを教育課程において明確にしながら、社会との連携及び協働によりその実現を図っていくかという社会に開かれた教育課程の実現が重要になる」

まさに、「よりよい学校教育を通してよりよい社会を創る」という考え方は、「社会モデルとしての特別支援教育」の考え方と相通じるものがあります。

・学校(社会)を作り直す過程に子供たちを巻き込む
・学校(社会)を変える主体として主たちを取組の中心に位置づける

という取組こそが重要であり、その時に有効なモデルが「社会モデルによる特別支援教育」という考え方です。

新学習指導要領の前文にあるように、これからは、「それぞれの学校が必要に応じて必要な教育活動を展開することが不可欠な時代」が訪れます。その時、私たち教師が「心の底から創りたいと思う学校」の姿を明確に描き、その実現に全力で取り組むことが求められています。そして、その実現の過程に特別支援教育・ユニバーサルデザイン・インクルーシブ教育などを位置づけることが重要なのです。

子供たちが学校生活を通じて、「学校を、社会を、自分を変えられる.変わることができる」ということを実感できることこそがこれからの教育に求められています。

特別支援教育は、新たな段階を迎えているように思います。