日本教育デザイン学会 ーJEDIー

新学習指導要領を読み解く(7)ー子供たちの現状と課題-


◯「新学習指導要領を読み解く(6)」では、「教育振興基本計画」の背景にある危機感について述べました。今回の学習指導要領の改訂も、その危機感の延長線上にあり、大改革とも言える改訂が必須だったのです。そこで、今回は「答申」に戻り、「子供たちの現状と課題」(答申p.5~p.8)を3分割して読み解くことにしましょう。

◯最初の部分のキーワードを抜き出してみましょう。
 ・改訂に当たっての論議の出発点
   ・子供たちの現状や課題についての分析
   ・これからの子供たちが活躍する将来についての見通し
 ・学力は近年改善傾向にある(TIMSS,PISAの結果、学習時間の増加)

 ・「人の役に立ちたい」と考える子供の割合は増加傾向
 ・人とのつながり、地域・社会との関わりの意識
   ・関わっていこうとする子供たちの姿
 ・学校生活が楽しい(9割)
 ・保護者の8割が学校に満足
 課題
   ・判断の根拠や理由を明確に示しながら自分の考えを述べる
   ・実験結果を分析して解釈・考察し説明したりする
   ・学ぶことの楽しさや意義が実感できているか
   ・自分の判断や行動がよりよい社会作りにつながる意識をもっているか

◯答申では、改訂に当たっての出発点について次のように述べています。
「学習指導要領等は、こうした経緯で改善・充実が図られてきた。改訂に当たって議論出発点となるのは、子供たちの現状や課題についての分析と、これから子供たちが活する将来についての見通しである。」

◯つまり、答申では、今回の学習指導要領の改訂を論議するに当たって、
 ①子供たちの現状や課題についての分析
 ②子供たちが活躍する将来についての見通し
の二つの視点が重要だと述べています。

◯では、「子供たちの現状と課題」の最初の部分を読んで、皆さんはどのような印象を持ちましたか。荒れた学校の勤務が多かった私は、読み始めてすぐに「この記述内容では『新学習指導要領を読み解く(6)』で述べた、『教育振興基本計画』の背景にある危機感を伝えられない」という思いを強く抱きました。
 答申という性格上、子供たちの現状や課題を統計的に述べることは致し方がないとは言え、今、教育や子供たちの目の前にある危機(いじめ、不登校、貧困、虐待等)を前提として「子供たちの現状と課題」を述べなければ、多くの先生方に「学習指導要領の改訂の意味・改訂のねらい」や「改訂に託す思い」が説得力を持って伝わらないのではないかと思うからです。
 それは、「今回、学習指導要領をどうしてもこのように改訂しなければならなかった」という中教審の委員の先生方の危機感や切実感こそが、一人一人の教師が「これからの教育で何に取り組まなければならないのか」を考え、改訂の趣旨を理解し、教育改革に一歩を踏み出すことにつながり、その最前で奮闘する教師をインクルーシブする重要なエネルギー源になると思うからです。

◯さらに、答申では「学校生活が楽しいと9割の子供たちが回答」している反面「学ぶことの楽しさや意義が実感できているか」「自分の判断や行動がよりよい社会作りにつながる意識をもっているか」ということに課題があると指摘しています。

◯「でも・・・・?」
 これまでの実践を振り返り、私たちに「学ぶことの楽しさや意義を実感できるような授業や教育を意識して実践してきましたか」と問われると、「学力向上」と「学ぶことの楽しさや意義」を比較したとき、「学力向上に注力してきた」というのが現実ではないでしょうか。
ましてや、「自分の判断や行動がよりよい社会作りにつながる意識をもっているか」と問われると、その答えは覚束ないものになってしまうのではないでしょうか。
この課題の背後に、「社会に開かれた教育課程」の必要性が隠れているように思います。

◯そのことを、答申では次のように述べています。

キーワードを抜き出してみましょう。
 ・課題
   ・学ぶことと自分の人生や社会とのつながりを実感すること
   ・自らの能力を引き出すこと
   ・学習したことを活用すること
   ・生活や社会の中で出会う課題の解決に主体的に生かしていくこと
   という面から見た学力には課題がある
・情報化の進展により、一定量の文章に接する機会が変化してきている

◯さて、皆さんはこの「子供たちの現状と課題」を読んでどのように感じましたか。「そうだ、その通りだ」と実感を伴って読むことはできましたか。私には、「そうなんだ」「そう分析しているんだ」と言うこと以上のものは残念ながら伝わってきませんでした。

◯「新学習指導要領を読み解く(6)」を公開してから、約半年が過ぎてしまいました。その理由は、「『答申』を分析するだけでいいのか」という思いと、「『答申』の内容が、教育実践家としての自分の肌感覚と異なっており、答申の内容がストンと腑に落ちないという状況がなかなか克服できないことにありました。そして、その思いは残念ながらいまも続いています。

◯私たち教師には、新学習指導要領の改訂の趣旨やねらい、その内容を十分に理解することは当然のことですが、その上で、「子どもたちの真実や現実の姿」から「自校の課題」を明確にし、教育活動を展開していくことこそが重要ではないでしょうか。「学力向上」が重要なことに異論はありませんが、そのことが目的になっていないかを改めて確認する必要があるように思います。

◯私たちに問われているのは、目の前で必死に生きている子どもたちを前にして、教師として、大人として「どのような子どもを育てたいと考えているのか」を明確にし、その姿を教師も子どもも共有し、「そのためには学力の向上が必要だ」という共通認識が重要だと思います。「カリキュラム・マネジメント」の重要性や価値はそこにあるように思います。