日本教育デザイン学会 ーJEDIー

新学習指導要領を読み解く(5)


◯これまで「幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方差に等について(答申)の、「はじめに」の部分を読み解いてきました。「はじめに」には、改訂への思いやこれからの教育への期待が込められており、その思いが「新学習指導要領」の「前文」へと繋がっていったのではないでしょうか。

◯今回からは、いよいよ「答申」の内容である「第1部学習指導要領改訂等の基本的な方向性 第1章これまでの学習指導要領等改訂の経緯と子供たちの現状」から読み込みを始めることにしましょう。そして、私たちが次年度から具体的に取り組まなければならないことは何かを考えていくことにしましょう
(なお、図中の「赤字」や下線は、久木が読んでいて気になった箇所示しています。答申を読まれる人それぞれによって気になる箇所は異なると思いますので、その部分を追加、あるいは久木がマークした箇所を削除して頂ければ幸いです。)

◯「第1部学習指導要領等の改訂の基本的な方向性 第1章これまでの学習指導要領等改訂の経緯と子供たちの現状」は、「前回までの改訂の経緯」から始まっています。
 ・各学校においては、学習指導要領等に基づき、
  …(中略)…、
  地域の実情や子供の姿に即して教育課程が編成され、
  年間指導計画や授業ごとの学習指導案等が作成され、実施されている。
という最初の段落を読み、私の教育実践家としてのこれまでの取り組みを反省しています。その理由は、「地域の実情や子供の姿に即して教育課程を編成してきた」とは言い切れない自分がいるからです。

◯現在勤務している学校や、お世話になった学校でのこれまでの教育課程の編成状況を振り返りながら、皆さんは「あなたは、本当に地域の実情や子供の姿に即して教育課程を編成していましたか」と問われた時、100%の自信を持って「はい」と答えることはできますか。「学校教育計画や年間指導計画を作成することで、教育課程を編成したと思いこんではいなかったですか」と問われた時「いいえ、我が校の教育課程は地域の実情や子供の姿に即して編成してあります」と答えることはできますか。

◯高度経済成長の時代は安定的であり、経済も右肩上がりでしたから、学校教育計画や年間指導計画などは「前年度踏襲」でもそれほど大きな齟齬はなかったかもしれません。そして、「教育課程の編成 = 学校教育計画・年間指導計画」という方程式を当然のこととしてきてはいなかったでしょうか。

◯しかし、失われた20年、30年といわれる時代を過ぎ、いま私たちは、厳しい社会変化の中で未来を担う子供たちの教育に携わっています「教育課程の編成 ≠ 学校教育計画・年間指導計画」という方程式の中で、「社会に開かれた教育課程」を編成することが期待されているのではないでしょうか。別な言い方をすれば、学校教育計画や年間指導計画を作成することは不可欠ですが、そのことが「社会に開かれた教育課程」と同義にはならない言うことです。

◯私たちがこれから編成しなければならない教育課程とは、「子供たちを中心に据え、子供たちの未来を想定し、今身に付けさせておきたい資質や能力を明確にし、それをすべての教師はもとより、子供たちや保護者、地域の人々と共有し、子供たち自らが主体となって学びを創造していくことができるような教育課程」ではないかと思います。

◯後日詳しく触れることになると思いますが、答申では「社会に開かれた教育課程」について次のように述べています。

◯自校の教育課程を編成する際、「我が校の教育課程は、社会の変化を柔軟に受け止めた『社会に開かれた教育課程』になっているか」と問い直してみることが必要なようですね。

◯さて、答申の「前回までの経緯」に戻って、さらに読み込んでいくことにしましょう。答申では、「前回改訂までの経緯」について次のように総括しています。

◯「前回までの改訂の経緯」を読むと、それぞれの改訂には、改訂しなければならない理由や背景があり、その時その時の課題に対応した改訂を進めてきたことがうかがえます。でも、繰り返されてきたそれぞれの改訂の意図やねらいが、学校現場に意図も含めて十分に伝えられてきたかというと疑問です。

◯学校や教育現場からすると、次々と打ち出されてくる改訂に対して、「Aという改訂やそれに伴う施策の評価もできていないうちに、B、C・・・という新たな改訂に伴う施策が次々と打ち出され、その実施や成果を上げることを迫られる」という、「改訂疲れ」とでもいえるような状況になってはいなかったでしょうか。

◯さらに、「改訂の経緯」を教育現場サイドから概観すると、改訂の方向性が一貫しているのかという疑問も湧いてきます。下図は、1996年(平成8年)の中教審から出された「21世紀を展望した我が国の教育の在り方について」(答申)から、今回の改訂に至るまでを時系列で示したものです。これを見ると「果たして改訂は一貫した考え方で貫かれていたのか」と言うことに疑問を感じます。

◯2000年(平成12年)に「総合的な学習の時間」が段階的に実施に移され、各学校は「学校独自の教育課程の編成」に取り組み始め、多くの先進的な実践例が共有されようとしていました。しかし、当時改訂された学習指導要領の完全実施が始まろうとする直前(2002年)に、文部大臣から「学びのすすめ」が発出され、総合的な学習の時間を通した教育課程の編成気運は急速に低下してしまいました。

◯さらに、「学力低下論争」の末に「全国・学力学習調査」が実施されるようになり、様々な学力向上施策に学校現場は追われるようになったのが現実ではないでしょうか。
(「全国学力・学習状況調査」が始まったときには、結果は公表しないという触れ込みでしたが、現在の状況は異なっています。・・・これが一貫した対応といえるのでしょうか?)
◯このように、過去20年間の我が国の教育を概観すると、様々な改訂やこれまでの教育が多くの成果をあげてきたことは確かです。しかし、これまでの教育や教育改革が「急速に変化している時代や社会」に十分に対応できておらず、これまで学校教育で子供たちに身に付けさせようとしてきた資質・能力では、子供たちがこれからの社会を生き抜いていくことができないのではないかという危機感の延長線上に、今回の学習指導要領の大改訂があることをしっかり認識する必要があります。

◯そして、我が国の未来、教育の未来に対する大きな危機感は、本年度で終了する「第2期教育振興基本計画」に通底しているものでもあります。次回、「新学習指導要領を読み解く(6)」では、第2期教育振興基本計画に触れ、「新学習指導要領」を読み解いていきたいと思います。