日本教育デザイン学会 ーJEDIー

「『超』入門 失敗の本質」に学ぶⅠ ー教育改革への期待ー


「『超』入門 失敗の本質」(鈴木博毅著・ダイヤモンド社)という本をご存じですか?

s_honnsitu3この本は、太平洋戦争の敗戦の原因を分析した『失敗の本質』(1992、中公新書)の入門書として2012年4月にダイヤモンド社から発刊され、わずか三ヶ月あまりで10万部を超え、現在は52万部を超える大ベストセラーになっています。

その一部を紹介すると、

◆日本人は「大きく考えること」が苦手であり、俯瞰的な視点から最終目標への道筋を作りあげることに失敗しがちである
◆日本人は革新が苦手で錬磨が得意
◆自分たちでルールをつくり出すことができず、既存のルールに習熟することばかりをめざす
◆創造ではなく「方法」に依存する日本人
◆最前線が抱える問題の深刻さを中央本部が正しく認識できず、「上から」の権威を振り回して最善策を検討しない
◆部署間の利害関係や責任問題のごまかしが優先され、変革を行うリーダーが不在

など、想定外の変化、突然に訪れる危機的状況に対する日本人や日本の組織の脆弱性を指摘しています。戦後70年を迎えた現在のわが国の状況を鑑みれば、まさに正鵠の辞といえます。
そして、これらの指摘は、次々と打ち出される教育改革を受け止め、困難の最前線で教育を担ってくれている学校や先生方の思いではないでしょうか。

◆「時代の転換点」を力強く生きる
今から4年8ヶ月前の2011年3月11日、千年に一度という大地震とその後の巨大津波に襲われた当時、「想定外」という言葉が盛んに使われ、福島第一原子力発電所の事故も「想定外」という言葉と一括りにされ論じられました。しかし、この二つの想定外は同じではありません。地震は自然災害であり、原発事故は人為的な災害だからです。

あれからもうすぐ5年になろうとしています。その間の地域の人々の懸命な努力はあっても、その後の復旧や復興の規模やスピードは「想定内」とはとても言えないような遅々たるスピードで進んでおり、多くの人々が未来への光明を見出すにはまだまだ時間が必要なようです。

さて、「『超』入門 失敗の本質」が出版された年に、「テレビ敗戦『失敗の本質』」と題した日本経済新聞(8月11日)インターネット版に次のような記事が掲載されました。

「ニッポン製造業補復活をかけて作られたシャープの堺工場とパナソニックの尼崎工場では、新鋭ラインを存分に操業させる前に、拠点集約や生産品目の変更が始まった。厳しく見れば「巨大工場決戦主義」そのもののアナクロニズムだったのかもしれない。アップル、グーグル、フェイスブックが仕掛けてきた『新しい戦い」に応戦できる企業は、まだこの国には生まれていない。

この記事は、企業を例に「今までと考え方が何も変わっていない」という実態を厳しく指摘しています。そして、現在の日本経済に目を転じてみると、円高から円安への誘導、2%の経済成長目標などに関して、アベノミクスの成果が問われるなかで、我が国は急速に進む少子高齢化、格差の拡大、国際競争の激化など、容易に解決のできそうもない深刻で解決しなければならない喫緊の課題に直面しています。特に、グローバル化の進展、国家間の経済競争の激化などは、これまでの我が国のやり方では解決することができない課題であり、その解決への道筋は厳しさを増すばかりです。

◆教育の厳しい現実を見据える
私たちは、「想定外」共いえる時代の転換点にいます。日本を取り巻いている経済の厳しい状況と同様に、教育の世界でも容易には解決できない様々な問題が起こっています。
いじめ件数が過去最高となり、不登校や引きこもりの件数は依然として高い数値のままです。また、発達障害や二次障害に苦しむ子どもの増加などが子ども達の成長・発達に深刻な影響を与えていることを直視しなければなりません。

2015/10/27の朝日新聞の報道では、

ijime1http://www.asahi.com/articles/ASHBQ6RM5HBQUTIL06Q.html

記事では、「小学校のいじめ件数が過去最高の12万件に達し、東日本大震災の被災3県では岩手のいじめ認知件数が前年度の6・9倍、宮城が6・2倍、福島が4・3倍といずれも全国平均(2・8倍)より高く、文科省では『震災と直接の因果関係があるかは不明だが、児童生徒のストレスが高いのは事実』と述べている」と述べています。
そして、グラフが示すとおり、これまでの調査でのいじめ認知件数の推移は、いじめ自殺が社会問題化するたびに急増し、その後減少していく傾向が繰り返されており、これまでの取組がいじめの根本的な解決につながっていないことを示しています。それは、「これまでの意識レベルや手法(方法)ではいじめを防ぐことはできない」という証左でもあります。

◆教育の世界でこそ「失敗の本質」を生かす努力が必要!
前述したように、シャープやパナソニックがテレビから撤退したようなことが教育の世界ではなかったのでしょうか。

2002年1月。文部科学省は4月からの新学習指導要領の全面実施の直前に「確かな学力向上のための2002アピール『学びのすすめ』」を発出し、学力低下の論議に抗しきれず、これまでの方針を転換しました。それは、あたかも「新鋭ラインを存分に操業させる前に、拠点集約や生産品目のへんこう」というシャープやパナソニックと同じ所作でした。
それから十数年が経過し、PISA調査の順位は持ち直しましたが、いじめや不登校、学力格差は拡大し、依然として教育課題は深刻な状況にあります。

そして、2020年の学習指導要領の改訂作業が進んでいます。私たち大人(教育関係者)は、子ども達の未来のために上記の指摘を真摯に受け止め、国の向かうべき方向性や教育改革に失敗を繰り返さないよう心しなければなりません。

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