夢・希望を育む教育のデザイン (改 -JEDIー)

次期学習指導要領での「各学校」というキーワードの意味

※これまで「アクティブ・ラーニング」のタイトルで3回記事を投稿しましたが、次期学習指導要領では「アクティブ・ラーニング」という語句の使用がなされませんので、タイトルを「次期学習指導要領 読解」として、掲載を続けます。


次期学習指導要領(案)は、これまでの学習指導要領と比べると大きな違いがあります。まず、下図(再掲:「アクティブラーニング-3- AL消滅?」に示すように、これまでの学習指導要領にはなかった「前文」が加わり、これからの教育の方向性が示されるとともに、「総則」の内容が全く異なっています。

(JEDI作成)

特に、「前文」で「社会に開かれた教育課程」の重要性が示されていることに注目すべきではないでしょうか。以下に「学習指導要領(案)」の一部を引用します。

引用 ———「中学校学習指導要領(案) p.1~p.2)
 これからの学校には,こうした教育の目的及び目標の達成を目指しつつ,一人一人の生徒が,自分のよさや可能性を認識するとともに,あらゆる他者を価値のある存在として尊重し多様な人々と協働しながら様々な社会的変化を乗り越え豊かな人生を切り拓き,持続可能な社会の創り手となることができるようにすることが求められる。このために必要な教育の在り方を具体化するのが,各学校において教育の内容等を組織的かつ計画的に組み立てた教育課程である。
 教育課程を通してこれからの時代に求められる教育を実現していくためにはよりよい学校教育を通してよりよい社会を創るという理念を学校と社会とが共有し,それぞれの学校において,必要な教育内容をどのように学び,どのような資質・能力を身に付けられるようにするのかを教育課程において明確にしながら,社会との連携及び協働によりその実現を図っていくという,社会に開かれた教育課程の実現が重要となる。(太文字は筆者が付加)

まさに、これからの教育では、各学校が「必要な教育内容をどのように学び、どのような資質・能力を身に付けられるようにするのかを教育課程において明確にする」ことが重要であり、各学校が主体性をもって編成する教育課程こそが、次期学習指導要領の実現には重要であるということです。

「学習指導要領(案)」を読むと、「各学校」という語句の多さに気づきます。現行の学習指導要領と次期学習指導要領では、構成や記述内容が異なることから単純に比較することはできませんが、「各学校」という言葉の出現数を比較すると2.2倍に増えています。

また、「社会に開かれた教育課程」が次期学習指導要領の中心テーマであることは、下図からもわかります。

一見すると青枠で囲まれた「何ができるようになるか」「何を学ぶか」「どのように学ぶか」が目立ち、そこに示されている三つの言葉に視点や関心が向きそうです。しかし、図をもう一度よく見ると、その三つの言葉に囲まれるように、「社会に開かれた教育課程」が図の中央に位置づけられています。
つまり、「社会に開かれた教育課程」を構成する要素(視点)として、「何ができるようになるか」「何を学ぶか」「どのように学ぶか」があり、「何ができるようになるか」を「何を学ぶか」「どのように学ぶか」が支えているという図になっています。

したがって、次期学習指導要領の成否は、各学校が「社会に開かれた教育課程」をいかに編成するかにかかっていると言っても過言ではありません。このことについて、文部科学省初等中等教育局教育課程課長  合田哲雄氏は、「教職研修」(2015.6)において、次のように述べています。

 「この学校の教育活動はどうしてこうなっているのですか」と聞かれたときに、ただ単に「文部科学省が定めた基準がこうなっているから」と答えるのではなく、「目の前の子供たちの実態を踏まえて、これが必要なのです」「文科省の基準はこうですけれど、これは20年後30年後にこのような社会構造の変化が予想されていて、そこから逆算すると、この活動が必要なのです」と、校長が言えることが必要で、そのための学校としての大きな見取り図がグランドデザインではないでしょうか。(中略)
 さまざまな「◎◎教育」が要請されていますが、校長として目の前の子供の今と将来を見据え「本校ではこれをしなければならない」と大きな構想を示す。校長には構想力を持って学校をリードするという役割と同時に、バッファ(緩衝)としての役割も求められる。それでこそ、先生方も、「この校長の下で、みんなで協力しながら、いろいろな壁を乗り越えてやっていこう」と思えるようになるのではないでしょうか。

本年度末までには、次期学習指導要領が告示され、その後、周知⇒準備⇒実施へと進んでいきますが、その基本に「社会に開かれた教育課程」の編成があり、改訂の趣旨を踏まえ、完全実施のための準備を学校全体が着実に進めておくことが重要なのです。