日本教育デザイン学会 ーJEDIー

新学習指導要領を読み解く(6)


◯今回の「新学習指導要領を読み解く(6)」では、これまで読み込んできた「学習指導要領の改善及び必要な方策等について」(答申)から離れ、国が定めている「教育振興基本計画」やその内容、振興計画の策定前に出されている「答申」等を参考に「改革や改訂の背景にある危機感」をテーマにして「新学習指導要領」を大改訂しなければならなかった理由を考えてみたいと思います。

◯さて、皆さんはどれくらい「教育振興基本計画」を意識していますか。久木の感覚では、学校現場では「教育振興基本計画」がそれほど話題になることもなく、現在の第2期教育振興基本計画が本年度で終了し、次期(第3期)教育振興計画の原案が示され、現在、パブリックコメント(平成29年10月2日(月曜日)~平成29年10月31日(火曜日))により意見募集が行われていることなどほとんど知られていないのが実情のように感じます。

◯しかし、各期の「教育振興基本計画」は、5年間の教育や教育施策を決定する大事なものですから、しっかりと情報収集し、意図や内容を理解しておきたいですね。そして、それぞれの資料から、「なぜそのような計画を作成したのか」という背景を読み解き、中教審の委員の先生方の思い(危機感)を共有することが重要だと思います。

◯「教育振興基本計画」とは、教育振興に向けた様々な施策を総合的、計画的に進めるための基本計画と言われています。改正教育基本法(平成18年12月15日、第165回臨時国会において成立し、12月22日に公布・施行)により、政府が作成し、国会に報告することが定められています。そして、都道府県や市町村も国の計画を参考に、地域の実情に応じて基本計画を作ることが努力目標となっています。

◯でも、この「都道府県や市町村も国の計画を参考に、地域の実情に応じて基本計画を作る」という努力目標が、教育現場の混乱や多忙感を助長している原因のひとつになってはいないでしょうか。

◯国の教育振興計画を参考に、多くの都道府県や市町村もそれぞれに「◯◯県(市)教育振興基本計画」を作成していますが、残念ながら、国、都道府県、市町村の教育振興基本計画に一貫性が見えない(もしかすると「ない?」)ことや、それぞれの作成の背景やねらい、重点施策が異なっており(統一性がなく)、学校現場は、国・都道府県・市町村のそれぞれの立場から実践や成果を求められても、「何を優先して取り組めばいいのか」という戸惑いや負担感ばかりが増してしまっているのが実情ではないでしょうか。その結果、重要であり周知・共有しなければならない「教育振興基本計画」への理解や関心がむしろ薄れてしまっているように思います。

◯学校現場の立場からすると、国・都道府県・市町村が作成する三つの教育振興基本計画がそれぞれ明示的に関連性を持ち、ひとつの教育施策や教育実践が三つの教育振興基本計画に波紋のように影響しあうような一体的なものになることを願うのですが・・・?。

◯そんな願いを抱きつつ、ここでは「教育振興基本計画」の変遷を見ていくことにしましょう。「教育振興基本計画」は、先に述べたように、平成18年に改正された「教育基本法」により、国に作成が義務づけられ、5年を期間として教育施策や実施のためのロードマップ等を示すことになっています。


◯そのスタートは、約15年前の平成15年3月に中央教育審議会から出された「新しい時代にふさわしい教育基本法と教育振興基本計画の在り方について」(答申)に見ることができます。この答申の詳細は、文部科学省のホームページでご覧頂くとして、ここでは「答申の概要」を見てみたいと思います。(新しい時代にふさわしい教育基本法と教育振興基本計画の在り方について

◯「答申に概要」が「危機に直面する日本社会」という見出しで始まることに改めて注目しなければなりません。

◯具体的には、日本の社会が直面している危機として、「自信喪失や閉塞感の広がり」「倫理観や社会的使命感の喪失」「社会の活力低下」「経済停滞と就職難」の4つの危機を掲げています。答申が出されてから15年が立ちましたが、多くの危機は依然として私たちの前に立ちふさがっているのではないでしょうか。

◯さらに答申では、「多くの課題を抱える日本の教育」として、「青少年の規範意識や道徳心、自律心の低下」「いじめ、不登校、中途退学、学級崩壊」「学ぶ意欲の低下」「大学の国際競争力が低下」の5項目を挙げています。そして、これらの教育が抱えている課題は、「危機に直面する日本の社会」と同様に、15年を経た今でも続いている課題です。

◯「答申」の内容の一部を下記に示しましたが、改めて読み直してみると、当時の中教審の先生方の「危機感」の大きさを伺い知ることができると共に、15年が経過した今でも残っている深刻な課題です。

◯このような背景を背負いながら、「第1期教育振興基本計画」は閣議決定(平成20年7月1日)され、実施に移されました。(第1期教育振興基本計画(パンフレット)


◯「第1期教育振興基本計画」が閣議決定されてから5年後の平成25年4月25日に、中央教育審議会は「第2期教育振興基本計画につて」(答申)を出します。(第2期教育振興基本計画について(答申)

◯この答申を初めて読んだとき、私は大きな衝撃を受けたのを今でも覚えています。それは、答申の冒頭に書かれている以下の文章から、中教審委員の先生方の切迫した危機感を強く感じたからです。

 

 

 

 

 

 

◯そして、「第二期教育振興基本計画は」、平成25年6月14日に閣議決定され、実施に移されました。(第2期教育振興基本計画(パンフレット)

◯改めて、答申の「はじめに」や「前文」に書かれている言葉や文章を読み返してみると、如何に私たちの社会や教育が直面している危機が深刻であるのかを強く感じますが、はたして答申から4年半が過ぎた現在、以下のような危機感を私たちは払拭できたのでしょうか。

◯下図は、「第2期教育振興基本計画につて」(答申)の、「はじめに」「前文」に書かれていることを久木なりに図解したものです。是非、答申を実際に読んでいただき、どのような願いを込めて教育振興基本計画が作成されたのかを推測して欲しいと思います。その上で、私たちは、これからどのような教育をめざしていったらよいのかを、衆知を結集して、教育の主体者として考えてみる必要があるのではないでしょうか。パラダイム・シフトが必要な時代に、私たちは突入しているのですから。